2019年3月8日金曜日

チェーホフを楽しむために


チェーホフを楽しむために
阿刀田高 著


2006年7月30日 発行

チェーホフの四大戯曲とされる「かもめ」「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」「桜の園」は本として読んだことがある。もちろんそれぞれに特徴はあるのだろうが、どうも煮え切らない上に組み合わせが微妙な恋愛物語と庶民の生活の苦しさが共通して思い出せる。それでいて妙に軽快な部分もあってただ暗さが残るというわけでもない。出てくる一部の登場人物とセリフが心に残っている。個人的にはワーニャ伯父さんその人が一番印象に残っている。

チェーホフが生きた年代を考えてみれば、彼が生きた時代のすぐ後に革命が起きてソビエト連邦ができるくらいなので、庶民の生活は苦しくて当然だったのか。そして、恋愛に関しては特に自分が結婚していてもお構いなしな人が多いのが気になった。

阿刀田高のこの種の本は今まで多く読んできたが、その中でもこの本はチェーホフという作家個人に焦点を当てたもの。それだけに、特に同業者としての阿刀田高自身のチェーホフへの思い入れが強く感じられる。短編を得意とするという共通項もあるからだろうか、自身と重ねた考察も目立っている。でも、ざっと調べてみたが阿刀田高自身は戯曲は書いていないらしい。

一応年代に沿った形で、チェーホフ自身の人生とその作品を引用しながら解説している。割と大胆に横道にそれることも多いこのシリーズだが、チェーホフに関しては割と正面から解説を付けている。それだけチェーホフ作品について語りたいことが多かったということかもしれない。

阿刀田高の序盤の作(デビュー作の1つ)に「冷蔵庫より愛をこめて」というのがある。これは当初「頼もしい男」という題名だったが、インパクトが足りないと編集者に言われて相談の結果「冷蔵庫より愛をこめて」に変えた、という話が書かれていた。その「冷蔵庫より愛をこめて」は読んだことがあるが、内容と合わせて考えると「頼もしい男」の方が不気味な感じがする。おそらくそれを狙った題名だったが、どんな本を書くか知られていない新人作家の題名としてはインパクトが足りないということだったのだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿