資本主義が嫌いな人のための経済学
ジョセフ・ヒース 著
栗原百代 訳
2012年2月16日 初版
なかなか大胆な題の本で、この題名からは2種類の印象が読み取れる。「資本主義(を極論した新自由主義的なもの)に納得行かない人にその反論の仕方を教えてやろう」ということと「資本主義の有効性を理解しない人にその素晴らしさを教えてやろう」というもの。おそらく両方を意図した本なのだが、印象としては後者に偏っている。
カナダの電気代は安く、省エネを訴えるのも難しいという。それは政府が補助金を出しているからであって、値上げしようとしても所謂左派から貧困家庭を慮る反対にあってできない。つまり、ごく一部の貧困層を助けるために、富裕層にも補助金を出すことになっている。つまり電気代を安くするよりも、貧困層にお金を回すことを考えたほうが社会にとっては有効なはずであるという。
興味深い事例がいくつも紹介されていて、いちいち理に適った説得力のある解説(というか批判)が述べられている。著者は経済学者ではなく哲学者だそうだが、「哲学者」という言葉から受ける印象とは異なり中々に攻撃的な本である。経済学的な知識は高度で、勉強不足の者には難解な部分もあった。
「インセンティブ」について「一般化するのは難しい」という。それはきっと人が「正しく」理解(行動)するとは限らないから難しいのであって、「正しく」理解(行動)できていない集団が大半なら「正しい」政策「正しい」結論とはなんの意味があるのだろうなどと考えていた。
誰もが正しい結果について合意しているときでも、胸が傷んだり、難しかったりして、その結果をもたらす行動がとれないことが多い。
訳の都合上のことでもあると思うが、読んでいてい気になるのは何度も出てくる「〜派はこういう間違いを犯す」という決めつけた言い回しで、この本のスタンス上極端な立場の人をあげつらわなければいけないのはわかるが「そんな人はいないんじゃないの?」という多分に藁人形論法的に聞こえる上に、分断を招くようであまり愉快な表現ではない。
余談だが、訳者の名前が忌野清志郎の娘と同じなのだが、プロフィール上の年齢を見ると無理があるので、その人ではなさそう。
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