目に見える世界は幻想か?
物理学の思考法
松原隆彦 著
2017年2月20日初版第1刷発行
冒頭をの部分を見ると
本書は、主に文系出身者など、これまでほとんど物理学には縁がなかったという人々へ向けて書かれた物理学の入門書である。とくに学校で習う物理に対して苦手意識が芽生え、その後はできるだけ避けて通ってきた、という読者を主に想定した。物理に嫌悪感を抱く人にとって、その主な原因は数式を使った計算にある。物理学とはどのようなものなのか、数式だけでなく難しい図表も一切使わず、ひたすら言葉だけで書くことにした。
だそうである。この決めつけは若干鼻につかないこともないが、しかし結論から言うと物凄く面白い本だった。別に避けてきたつもりはないが自分が想定された読者としてよく嵌っていたということだろうか。冒頭はこの引用の後も筆者が大学で一般教養科目として物理学科以外の学生に物理を教える困難さを語っていて、その中で色々考えた結果としてこの本が生まれたのだろう。そして著者のホームページを見たら「文系でもよくわかる 世界の仕組みを物理学で知る」という本を今年の2月に発売していた。
この本は基本的には物理学の始まりから歴史を順を追って書く形になっている。カタカナの人名がたくさん出てきて、有名な単位や定理の名前になっている人も多い。物理学の歴史の中で個人的にやはり面白いと思うのはニュートンの所謂「古典力学」から「量子力学」への移り変わりの所だ。
私が量子力学に惹かれるのは
量子力学の原理は、日常的に見られる常識的な世界とはかけ離れた世界だ。
原子レベルの微小な世界は、私たちが私たちが常識的に考える世界とは全く異なるものであった。
こういうところ。何か他の分野を語る場合でも、あるいは日常会話や低レベルな議論でも「物理的に」とか「科学的に」とか言うけれど、そこに「日常や常識とはかけ離れた世界」をイメージしている人はいるだろうか。あんまり煩い人がいたら「古典力学」とアダ名を付けてやろう。
量子力学は「本質的に不確定」であって、それに対する「神はサイコロを振らない」というアインシュタインの主張も面白い。「コペンハーゲン解釈」からの「黙って計算せよ」という話も魅力的で、こういう面白い話が100年も前にあって物理学が発展し、社会の発展に大きく貢献して現在まで繋がっていると思うと感動的である。
量子力学の話を読んでいて感じが良いのは「全てを正確に知ることはできない」という人間の謙虚さが見えているからかもしれない。それも「まだわからない」というわけではなく「本質的に不確定」ということになっているのだから受け入れるしかない。そしてそれすらも量子コンピューターとして利用しようとする人類は逞しい。
この本は更に相対性理論と最終的に宇宙の話にも繋がっていく。地球上では再現できない質量や重力が存在する宇宙の研究が物理学にとって重要なことで、できるだけ遠くを観察することが過去を観察することになるというのも興味深い。正直言って宇宙の話は最終的に自分自身の存在と生死の思考に陥ってしまうので苦手なのだが研究の必要性には興味を持った。
数式と共に物理を学び直したい、とまでは思わないが、もう少しこの分野の本を読み続けたいとは思った。
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