管仲 上下
宮城谷昌光 著
2006年7月10日 第1刷
管仲は古代中国春秋時代の覇者斉の桓公に宰相として仕えた人で、同時代で最高の知能を持つというか、最高の成果を上げた人とされる。そして、管仲とその友人である鮑叔との関係は有名で、「管鮑の交わり」と称される。この本もこの2人の友情を中心に話は進んでいる。
後書きによると管仲が若い時の資料というのはあまり揃っていないようで、管仲と鮑叔の出会い方についても作者の創作した部分がかなり多いようである。それでも、もちろん整合性が崩れるようなものではないし、リアリティは充分ある。宮城谷昌光がこの時代を描いた本は多く、当然ながらそうした中にも覇者である桓公や管仲、そして「管鮑の交わり」についても言及されていることが多い。だが、いざ主役として小説にする時は苦労したそうだ。正直なところ、その意味ではおそらく資料が多いであろう桓公が即位してからの「歴史」になる前までの部分の方がこの本は面白い。
毎回この人の本を読んで感心するのは、おそらく大半が創作と思われる登場人物たちの恋愛模様で、これが小説を読みやすく興味深いものにしている。普通に考えれば1人の英雄が身を立てていく中で恋愛に関わった時間があるのが自然であり、それによって影響を受けて挫折したり成長する場合も多いだろう。そうした時間を宮城谷昌光は上手く書く人だと思う。
桓公の前の前の君主が桓公の兄にあたる襄公である。この襄公に疎まれて桓公は若くして亡命生活を強いられる。この襄公は異母妹にあたる文姜と呼ばれる人と近親相姦の関係にある。文姜が隣国に嫁いでからも関係はともかく、襄公は文姜を大事にしていて、その夫を暗殺することまでしている。またこのことが襄公が支持を得られなかった遠因になったはずでもある。
この話も、この時代の大事件の1つであり、他の本でも語られている話なのだが、宮城谷昌光はこの本を書くにあたって文姜という女性に改めて興味をもったようで「当時の倫理に抗った人」という観点からかなり好意的な解釈を書いている。近親相姦というと不気味さが漂うので掘り下げたくない、というのが特に儒教を大事にする中国の歴史を見る視点だったらしいが、その視点を改めてみたのは面白い。
こうした小説を久しぶりに読んだが、特に前半が凄く面白かったのでものすごい速さで読み終わった。読書にはこうした「勢い」というのがたまには必要だと感じた。
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