2019年8月4日日曜日

メノン - 徳(アレテー)について


メノン - 徳(アレテー)について
プラトン 著
渡辺邦夫 訳・解説


2012年2月20日 初版第1刷発行

「メノン」はプラトン初期の作品とされるもので、60代のソクラテスが20才前後の若者メノンと「徳(アレテー)とは何か」について対話を行う。メノンも実在の人物で、ギリシャ北部テッサリアから来た「外国人」である。彼はこの対話があった設定の数年後に、あっけなく戦死してしまう。この話にプラトンが彼を採用したのは、意欲はあるが、今はまだあまり有能ではない、これからの人の代表として登場ささせたのだろうか。その後の彼の知的人生がどうなったか(死んでしまったので)わからないということで都合がよかったのかもしれない。

アレテーというのは「徳」とか「卓越性」と訳される言葉。とりあえず、備わっていれば善いこととされるものである。それが何かということを対話していく。もちろんアレテーとは何かということについても様々な考察がされていて面白いが、それよりもこの本のあり方はメノン自身の考え方を変えさせることに主眼があるように思われる。メノンのそもそもの質問は「アレテーは人に教えることができるか?」というもので、ソクラテスはそれに「では、アレテーとは何か?」と問い返すところから始まる。

圧巻だったのは、ソクラテスが「想起説」という、「人の魂は生まれる前から様々のことを知っているのだから、私たちが学ぶということはその過去を想起することである」という説を説明するために、メノンの召使いの少年を相手に数学を教える所。この「想起説」自体はほぼメノンのための説という感じで、あまり感動的なものではないが、ソクラテスが図形の問題(1辺が2フィートの正方形の倍の面積を持つ正方形の1辺の長さは?)を、質問(対話)する形で少年から答えを引き出していく。教えて誘導しているようなところもあるが、それもむしろリアルな感じすらする。

「メノン」は短い話だが、対話の中でソクラテスはあの手この手でメノンの考え方を変えようとしている。このあの手この手自体も面白いし、その中でメノン自身が徐々に成長しているように見える様子は興味深く、そこだけでも文学的な価値があると思う。また、この数年後にソクラテスを告発して死刑に追い込むことになるアニュトスがちょっとだけ登場して、ソクラテスと話し合って機嫌を悪くする場面が描かれている。この2人の話は当時の有名人の名前が多く出てくるところで、歴史的、時事的な意味に寄っていそうで、あまり哲学的な意味があるとは思わないが、なんとなく劇作家としてのプラトンのサービス精神のようにも感じられた。

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