2019年4月5日金曜日

白昼の悪魔


白昼の悪魔


アガサ・クリスティー 著
鳴海四郎 訳


2003年10月15日 発行

アガサ・クリスティーの単行本になっている長編で読んでいないのは残りが少なく、正直なところ題名を見ただけでは既によくわからない。一応序盤を読んでこれは大丈夫だろう思っていたが、最後まで読んでみたら確かに初めて読むものだった。

舞台設定は短編「砂にかかれた三角形(Triangle at Rhodes)」に似ていて、おそらくこれが元になっているのだろうが、もちろん結論は違う。基本的には二組の夫婦がもつれたような話。そして今回読んだ上での問題は、途中まで読んだところで、この話のデヴィッド・スーシェ主演のドラマをテレビで見たことがあるのを思い出したことだった。それほど内容を覚えているわけでもないが、描写された風景から映像を思い出したので、それだけドラマの舞台設定が精巧にできていたのだろう。

なんとなく犯人が捕まるシーンも覚えているので、むしろ本を楽しむと言うよりはそっちを思い出す方に頭が偏ってしまった。そのせいか登場人物に感情移入することが普段よりもできなかった。長編を読んでいると、登場人物に1人くらい特に気に入る人がいるもの(その人が犯人のことも多い)だが、今回はそういうこともなかった。当時のアガサ・クリスティー自身の調子は良さそうで、序盤の伏線がうまく回収されているし、振り返ってみると上手く犯人についてのヒントも与えてくれている。

この本は2003年の本でいつ訳されたものかはわからないが、Wikipediaを見ると鳴海四郎(1917〜2004)がこの小説を翻訳したのは1976年となっている。当時もポアロのキャラクターは確立されていただろうが、当然ながらデヴィッド・スーシェのポアロが登場する前のことなので、必ずしもやや大げさに慇懃なキャラクターが今ほど定着していたわけではないのではないだろうか。この翻訳だと全てが敬語というわけではないので、スーシェのポアロよりももう少し気さくというか特に警察との関係が身近な印象がややある。これはこれで個人的には良いと思う。

日本語的な限界はあるものの、古い時代の小説は翻訳もなるべく小説自体が書かれた時代に近いものの方が好みである。ついでに言うと本も古いほうが良いかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿