2019年4月11日木曜日

藤沢周平短編傑作選(巻二) 父と呼べ


藤沢周平短編傑作選(巻二) 父(ちゃん)と呼べ

藤沢周平 著


1981年10月20日 第一刷

賽子無宿」「帰郷」「恐喝」「父と呼べ」「闇の梯子」「入れ墨」「馬五郎焼身」「おふく」「穴熊」が収録されている。それぞれ結構長さがあると思って読んだが、振り返ってみてこれだけ数が入っていたとは意外だった。全て町方の話で主役は武家ではない。最後の「穴熊」には武士が出てくるが浪人である。

武家ものだと、剣豪が出てきて悪人を倒してくような割と単純に気持ちの良い話もあるのだが、この短編集はいずれも庶民の生活の苦労が偲ばれる話で、バッドエンドともそうでないともつかないようなものが多い。印象としては暗い世界に生きる人の情がテーマになっている。

恐喝」「入れ墨」「穴熊」は他の短編集で読んだことがあった。そのうちの「入れ墨」はろくでなしだった父親が老人になってから娘二人が経営する小料理屋に現れる話で、最終的には娘たちを窮地から救う。つきまとう無頼漢を「やっつける」わけだが、その件が以前読んだときから気に入っている。

ゆっくりした動きに見えたが、卯助の躰のこなしには、どこか確かな手順をふんでいるような、馴れた感じがあった。兇器は誤りなく乙次郎の頸を切り裂いていた。

父親である卯助老人はこの話で、ここまではただいるだけで、殆どセリフがなく動きも緩慢である。それが最後の活躍のシーンで突然変わるわけではなく、そのまま事を成す。

この本の後書きには、巻末エッセイとして「市井の人々(一)」というのが書かれている。そのなかで藤沢周平は「おふく」という話について書いている。この話は「会社の仕事で渋谷から浅草に行く地下鉄に乗ったとき」に正面に座った行儀の良い少女を見て想像を膨らませた話だそうだ。優れた作家の想像力というのは流石に桁違いなものだと感心した。

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